2008年春、私の思い

私は、昨年6月英国ロンドンのホテルで転んでしまい、背中を強打してしまいました。その痛みをこらえ何とかヒースロー空港から這うようにして帰国しました。整形外科のお医者様より「この1ヶ月は自宅にて安静にしているように」と言われ、7月いっぱい自室にて静かに臥す生活を余儀なくされました。
しかし、この現実とは裏腹に、この「転び」は、私に色々なことの「気づき」を与えてくれました。
最初に、神に感謝しました。
それは、「この怪我により、半身不随になったり、車いすの生活をせねばならなかったり、身体に麻痺が残ったり、言葉のろれつが回らなかったり」というような症状は一切なかったのです。もしも頭の強打だったなら命さえも危ない最悪な情況になったのではないかと思います。しかし、運良く、背中と腰の多少の痛みのみで生活するのに全く支障がなく済んだことに、更に、私にこの「学び」を与えて下さった神に心から感謝をしました。
そして、不自由な辛い生活をされている方々の心の痛みがほんの少しだけ理解できたような気がしました。今までの訳知り顔に生きてきた私に対して恥ずかしい気持ちで一杯になりました。
私は、養生をしている間、手当たり次第、多岐にわたって色々な分野の本を読みました。
「第二次世界大戦で日本が受けた無情な残酷と深い悲しみについて」の本からは、日本を心から愛おしく切なく思い、この上もない大きな悲しみの感情が限りなく押し寄せてきました。 「戦争」というこの世の全てにおける破壊と人間の大切な命を根こそぎ奪ってしまう「最大の悪」に心の底から憎しみを覚え、人間の大いなる愚かさに慟哭しました。
そして、新渡戸稲造の「武士道」を読みました。「武士道」の精神とは、江戸時代において、「義」「勇」「仁」「礼」「誠」「名誉」「忠義」からなり「徳を積む」精神教育として、武士にとって身につけねばならぬものでした。そしてその精神から日本人としての品格が生まれました。私は、1899年、100年以上も前に新渡戸稲造が西洋人に向けて書いたこの「武士道」という本を読み、その精神に日本人としての誇りを感じ、この世において、人間の「愛」=「仁(慈悲慈愛)」こそが何にも代え難く大切なものだと今さらながら心に浸み入るように学び感銘を受けました。
最後に英国の自然環境保護団体「ザ・ナショナル・トラスト」の基礎を弁護士であるロバート・ハンター卿と牧師であったキャノン・ローンズレーと共に築いたことで知られている「オクタビア・ヒル女史」の伝記を読みました。しかし「ザ・ナショナル・トラスト」は彼女の偉業のひとつであって、彼女にとって最大の偉業ともいえるのは、「ロンドンの貧民街の住宅環境を整備する」ことに生涯を捧げたことです。 現在のロンドンの住宅環境の基礎を築いたと言っても過言ではない大事業を彼女は成し遂げました。 彼女はいつもこう言っていたそうです、「たとえ大金持ちで裕福で贅沢な日々を過ごしていても人間としてだらしがない生活をしている人達よりも、たとえ貧しくても清潔で健全な生活をしている人達の方がより立派なのです」と。私は、これこそが、彼女の真の信念であったと思いました。
また、彼女は、中でも「オープン・スペース」の大切さを説きました。「どんな貧しい住宅事情でも、みんなと共有する「オープン・スペース」は非常に大切なものなのです。その中に人々が集い心を通わせることにより、その人々の共通の楽しみと幸せが生まれるのです。」 これこそが、彼女の一番の思想なのです。そして、彼女は、貧しい住宅環境に対して生涯をかけて戦い続けながらも、「オープン・スペース」をたくさん作り、その中で、スポーツやイベントなど人々の集いの場を常に提供し、時にはその「オープン・スペース」の中から「チャリティ」も行ない貧しい人達への慈善活動にも貢献したのです。この彼女の偉業は、ロンドンばかりではなく当時のイギリス、やがてはヨーロッパの住宅環境に革命を起こすがごとく影響を与え、民のための住宅環境の整備を行ったのです。
「オープン・スペース」という観念は、現在の日本においても非常に重要なことだと思います。日本各地どんなに小さな所でも「公園」と呼ばれる「オープン・スペース」がたくさんあります。この全国の「公園」が「オープン・スペース」としてもっと人々の、周りの住民にとっての共有の財産として有効に利用されるべきではないかと思います。 「人々が集まり楽しみと幸せを共有する」という「オープン・スペース」の本来の役目が果たされれば、現在、世界中で叫ばれている環境問題に対しての解決策の取り組みのひとつとして日本発信のモデルケースとなり得るかもしれません。これには、行政の柔らかい取り組みと各地のボランティアの人々の協力が是が非でも必要です。普段の暮しの中で、ふと振り向けば「公園」のように身近で人間のための良い環境の土台が転がっているものです。環境保護は人間がいてこそのものです。人々と共に、庶民と共に歩む環境保護でなくてはならないと思います。
このオクタビア・ヒルが取り組んだ「オープン・スペース」は、「N.G.S.ジャパン」の庭園福祉活動に相通じる考え方だと思います。
「自己利益でなく自己犠牲を基本とした経済学を説き、新しい社会主義ユートピアを目指し社会主義の実践活動をし続けた」社会思想家ジョン・ラスキンの愛弟子でもあったオクタビア・ヒルの生涯にわたる信念が、「賢明なる判断、無私無欲なる献身、正義へのゆるぎない信頼」であったことを知り、非常に私の心は揺さぶられ、開眼する思いでした。
「N.G.S.ジャパン」という私の運命を通して、平和を願い、仁という愛のために、どれほどの「賢明なる判断、無私無欲なる献身、正義への揺るぎない信頼」を貫けれるか、これこそが、これからの私の課題であり、正に「私の人生の揺るぎない信念」だと確信しています。
昨年は後半、私の怪我ゆえ、満足のいく活動ができぬままに過ぎてしまいましたが、皆様の暖かなご協力ご支援のおかげで、「ガーデン・オープン・チャリティ」から約45万円の小さな幸せ達が生まれました。心から感謝申し上げます。本当に有り難うございました。庭園福祉活動は本当に地道な活動ですが、本年度もどうぞよろしくお願い申し上げます。

感謝と共に心をこめまして
N.G.S.ジャパン
谷口 多美江

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